WT/DS139/R, WT/DS142/R

11 February 2000

Canada – Certain Measures Affecting the Automotive Industry

    Complaint by Japan, Complaint by the European Communities

Report of the panel

 

<目次>

案件

申立国

被申立国

関連協定

第三国参加

経緯

事実関係

 1.問題となった国際合意−オートパクト、米加自由貿易協定、NAFTA−

 2.問題となったカナダの国内措置―MVTO1998、SROs−

パネル決定の分析

 1.最恵国待遇原則

 2.内国民待遇原則

 3.補助金協定(輸出補助金及び国産品優先使用補助金の禁止)

 4.GATS(最恵国待遇原則、内国民待遇原則)

パネルの結論

 

*案件

自動車関連措置

 

*申立国

日本

EC

 

*被申立国

カナダ

 

*関連協定

GATT1.13.424

TRIMs2

補助金協定3

GATS2617

 

*第三国参加

インド、韓国、米国

 

*経緯

1998年 7月 3日    日本による協議要請

1998年 8月17日 ECによる協議要請

1998年11月12日    日本によるパネル設置要請

1999年 1月14日 ECによるパネル設置要請

1999年 2月 1日    パネル設置

2000年  2月11日    パネル報告

※2000年5月31日上級委員会報告。2000年6月19日、パネル/上級委員会報告採択。

 

*事実関係

1.問題となった国際合意 −オートパクト、米加自由貿易協定、NAFTA−

 本件で問題となった、条件付き関税免除措置は、米加間で締結されたオートパクトに端を発するものである。

オートパクトは、(1)現在輸入している産品について、基準年である1963年に、カナダでの生産活動を行っていること(生産活動要件、manufacturing presence)(2)MVTO及びSROsに規定された生産・販売比率についての要件を満たしていること(比率要件、ratio requirement)(3)カナダでの現地付加価値率(CVA; Canadian Value added)についての要件を満たしていること(CVA要件、CVA requirement)、の3条件を満たす生産者(manufacturer)に対しては、関税免除措置が与えられると規定していた。

 1965年3月、GATT作業部会は、オートパクトに基づく米国の措置は、GATT1条に違反するとした。その後米国は、GATT25条に基づくウェイバーを得、ウェイバーは1998年1月1日に失効している。なお、同作業部会は、オートパクトに基づくカナダの措置がGATTに違反するか否かについては、明確な結論を出していない。

 また、1989年1月1日に発効した米加自由貿易協定は、協定の原産地規則で認められた産品に対しては、1998年1月1日までに自動車に対する関税を撤廃する、と規定していたほか、協定発効以降新たに関税免除措置の対象となる生産者を、(1)オートパクトで認められた生産者(Auto Pact manufacturer)(2)協定発効以前にカナダ政府に指名されていた生産者(manufacturers designated by the Canadian Government as beneficiaries prior to the signing of the CUSFTA)(3)1989年のモデル年までにカナダ政府に指名されることが予想される生産者(other firms which were expected to be designated by the Canadian Government by the 1989 model year)、に限定する、と規定した。以上のカテゴリーに入らない生産者が関税免除措置を受けるには、カテゴリーに含まれる生産者に吸収/合併されるほかなくなった、ということになる。

 1994年1月1日より、CUSFTAの上記規定は、NAFTAに引き継がれた。これにより、メキシコから輸入されるトラックに対して関税が免除され、その他の自動車についても2003年1月1日以降関税が免除されると規定された。また、NAFTAの原産地規則の要件を満たす米国からの自動車に対しては、1998年1月1日以降関税が免除されている。

 

2.問題となったカナダの国内措置―MVTO1998、SROs―

上記の国際合意は、MVTO1998(Motor Vehicles Tariff Order 1998)及びSROs(Special Remission Orders)によって、カナダで実施・運用されている。

 MVTO1998に規定されている条件は、オートパクトに規定された条件と同じである。また、“manufacturers of a class of vehicles”の定義や、CVAなどの具体的数値、計算方法などについて、細かい規定を置いている。MVTO1998により関税免除措置の対象とされたのは33の企業で、そのうちの4社(クライスラー・カナダ、フォード・カナダ、ゼネラルモーターズ・カナダ、ボルボ(カナダ))は自動車生産者(manufacturers of automobiles)、7社がバス生産者(manufacturers of buses)、27社が特定商用車生産者(manufacturers of specified commercial vehicles)となっている。

 SROsは、カナダが指名により関税免除措置を与える際に発布される。SROsにも、MVTOと同様の条件(具体的数値は異なる)が規定されている。SROsによって関税免除措置の対象となったのは、63の企業で、そのうちの2社(CAMI、インターメカニカ)は自動車生産者、5社がバス生産者、59社が特定商用車生産者となっている。

 

*パネル決定の分析

 パネル決定は、最恵国待遇原則、内国民待遇原則、補助金協定、GATSの4つの論点に分けられる。以下、論点ごとに分析する。

 

1.最恵国待遇原則

最恵国待遇原則で禁止される差別とは何か

 日本は、輸入産品それ自体の性質に関係のない基準で(criteria which are unrelated to the imported product itself)関税免除措置の有無を決定することは、加盟国から輸出される同種の産品へは、”immediately and unconditionally”に関税免除措置を付与しなくてはならない、と定めたGATTに違反する、と主張した。これに対しパネルは、カナダの主張を認め、GATT1.1条の最恵国待遇は差別そのものを禁止しているのではなく、同種の産品を原産地国によって差別する措置(discrimination between like products of different countries)のみを禁止している、とし、日本の主張を退けた。また、パネルは、日本が挙げたBelgian Family AllowanceWorking Party Report on the Accession of HungaryIndonesia-Autosのそれぞれにおいても、いかなる差別をも最恵国待遇原則違反となるとされた訳ではなく、原産地国による差別措置のみを最恵国待遇原則違反と決定されたにとどまるとした。

 

カナダの措置は、原産地国による差別措置か

 日本とECは、カナダの措置は、産品に対して原産地国による差別を行うものではないが、関税免除措置を受けられる輸入者(importers)に数的条件を課すことにより、結果的には特定の原産地国からの産品に免除措置を与えており、GATT1.1条で禁止されている事実上の差別的措置(de facto discrimination)にあたる、と主張した。これに対し、カナダは、輸入者に対し、「原産地中立的(origin-neutral)な」条件を課すことはGATT1.1条で禁止されておらず、カナダの措置はGATT1.1条に違反しない、と反論した。パネルは、GATT1.1条の解釈に関するカナダの立場を支持しつつ、この文脈における「原産地中立的」とは非常に狭い概念であり、輸入者にたいして数的条件を課すことも、「原産地中立的」ではない、とされ得るとし、カナダの措置を詳細に検討する。

 すなわち、カナダは、ある基準年におけるカナダでの生産活動について、一定の条件(生産・販売比率要件、現地付加価値率要件)を満たしている企業に、関税免除措置を与えているが、1989年以降、新たにこの条件を満たすとして認められた企業はない。つまり、関税免除措置を与えられている企業は、クライスラー、フォード、ゼネラルモーターズ、ボルボの4社に固定されている。また、自動車産業においては、グループ内取引が盛んであり、特別な資本関係などがない限り、各自動車ディーラーは、系列自動車しか輸入・販売しない。つまり、輸入者(ディーラー)に条件を課すことで、輸入車の原産地を限定することが可能となる(下図参照)。

 パネルは、自動車産業の特徴、関税免除措置の実際の運用状況、措置が導入された歴史的背景(オートパクトは米国自動車会社の招致を意図していた)を考慮しつつ(パネルは、自らの分析を、based on analysis of consequencesとしている)、カナダの関税免除措置は原産地国による差別的な措置であり、GATT1.1条に違反する、と判断した。

右矢印: A国α社製品のみ輸入,右矢印: A国β社製品のみ輸入,右矢印: B国γ社製品のみ輸入,右矢印: B国δ社製品のみ輸入
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テキスト ボックス: 輸入者への、表面上は原産地中立的な条件 

 

 


GATT24条により、GATT1.1条の適用免除が認められるか

 カナダは、当該関税免除措置は自由貿易地域(具体的にはNAFTA)を構成する国(米国、メキシコ)に対する措置であり、GATT24条によりGATT1.1条の適用は免除される、と主張していた。しかしパネルは、カナダの措置は、NAFTA諸国のみを対象とするものではなく、また、NAFTA諸国の企業のすべてを対象としているわけではないとし、カナダの主張を退けた。

 

2.内国民待遇原則

GATT3.4条とTRIMsのいずれを先に検討すべきか

 EC-Bananas IIIのパネルは、GATT3.4条に関する申立を、TRIMs2.1条に関する申立より先に検討し、GATT3.4条違反を認定した後は、重ねてTRIMs2.1条に関する申立を検討する必要はない、とした。また、Indonesia-Autosのパネルは、TRIMs2.1条に関する申立が、本件に関する限り、GATT3.4条に関する申立より特定されたものである(more specific)とし、前者を先に検討し、TRIMs2.1条違反を認定したうえ、重ねてGATT3.4条を検討する必要はない、とした。

 本パネルは、本件においては、TRIMs2.1条に関する申立がGATT3.4条に関するものよりも特定されているわけではなく、TRIMs2.1条に関する申立を先に検討しても、GATT3.4条に関する申立についての争点は残り、これを別個検討しなくてはならない、とし、GATT3.4条に関する申立を先に検討するとした。

 なお、本パネルはカナダの措置はGATT3.4条に違反しているとの判断を下し、TRIMs2.1条に関する申立については検討しなかった。

 

CVA要件は内国民待遇原則に違反するか

(i) MVTO 1998(Motor Vehicles Tariff Order 1998)及びSROs(Special Remission Orders)に規定されたCVA要件

 MVTO1998及びSROsには、関税免除措置を得るための条件として、カナダでの生産活動が一定以上の現地付加価値率(CVA; Canadian value added)の達成が規定されている。これによると、カナダ国内で調達した部品や材料の費用は現地付加価値率に含まれるのに対し、輸入部品などの費用は現地付加価値率に含まれない。日本やECは、こうした規定は、輸入部品にカナダ製部品よりも競争条件を不利にするものであり(関税免除措置を得たいメーカーは、現地付加価値率を高めるため、輸入部品よりもカナダ製部品を優先的に使用すると考えられるため)、内国民待遇原則に違反する、と主張していた。一方カナダは、カナダ製部品を優先的に使用せずとも現地付加価値率を高めることは可能であり(現地付加価値率には、部品などの他にも人件費、運営費など諸経費が含まれる)、カナダ製部品の競争条件に与える影響は軽微である、と反論した。

 パネルは、@紛争当事国の争点は、CVA要件が、GATT3.4条に規定される「国内における販売、・・・(中略)・・・使用に影響する法令、規則、要件(“all laws, regulations and requirements affecting internal sale, … or use.”)」に相当するか否かである(強調は筆者)、A輸入産品ではなく国内産品を使用することを条件として何らかの便益を与える措置は、たとえそれ以外の方法(国内産品よりも国内サービスを利用する、など)でも同じ便益を得られるとしても、輸入産品と国内産品との競争条件に影響を与えることには変わりはなく、「国内における販売、・・・(中略)・・・使用に影響」している(In light of our interpretation of the word “affecting” in Article III, we consider that a measure which provides that an advantage can be obtained by using domestic products but not by using imported products has an impact on the conditions of competition between domestic and imported products and thus affects the “internal sale, … or use” of imported products, even if the measure allows for other means to obtain the advantage, such as the use of domestic services rather than products)、B以上より、国内産品の使用に対して便益を与えるCVA要件は、国内産品の使用を求めるものではないが、「国内における販売、・・・(中略)・・・使用に影響」している措置としてみなさなくてはならない(the CVA requirements, which confer an advantage upon the use of domestic products and deny that advantage in case of the use of imported products, must be regarded as measures which “affect” the “internal sale, … or use” of imported products, notwithstanding the fact that the CVA requirements d no in law require the use of domestic products)、とした。また、実際に影響がある(in practice affect)か否かは問題ではない、とした。

 以上より、パネルはMVTO1998及びSROsに規定されたCVA要件は、内国民待遇原則に違反する、と結論した。

※GATT3.4条の上記に引用した部分の外務省訳は、「国内における販売、・・・(中略)使用に関する」(強調は筆者)となっている。

(ii) 受諾書(Letters of Undertaking)に規定されたCVA要件

 MVTO1998及びSROsに規定されたCVA要件のほか、オートパクト成立直前にカナダの自動車メーカー(motor vehicle producers)4社(ゼネラルモーターズ・カナダ、フォード・カナダ、クライスラー・カナダ、アメリカンモータース(カナダ))からカナダ政府に寄せられた受諾書の中には、オートパクトの要件に加え、CVAの数値についての追加的約束(commitment)が含まれていた。紛争当事国は、この受諾書が、GATT3.4条に規定される、国内販売や使用に影響を与える「要件(requirements)」なのか、法的に拘束力のない単なる要望(statement of what was hoped to be achieved)なのかについて、争っていた。

 パネルはまず、Canada-FIRAEEC-Parts and Componentsのパネル報告を引用しつつ、GATT3.4条の「要件」とは、私人の行為と政府の行為との間に何らかの連関があり、したがって政府が当該私人の行為について責任を有するような場合(there is a nexus between that(private) action and the action of a government such that the government must be held responsible for that action; ()内は筆者注)の場合であり、本件においては、4つのメーカーによる約束(undertakings)とカナダ政府の行為との間に何らかの連関があり、したがってその約束がGATT3.4条にいう「要件」とみなされるのかを検討すべきである、とした。パネルは、さらにこれを、@受諾書提出にカナダ政府がどのように関わっていたか(the nature of the involvement of the Government of Canada in the submission of the Letters)、A受諾書の中の約束(commitments)に拘束力があり、カナダ政府は履行を監視していたか(binding and enforceable, and … the Government of Canada monitors compliance with these commitments)、に分け、以下のように分析・結論している。

 @については、受諾書の書き出し(opening sentence)、各社が提出した受諾書の形式等の類似(similarity in structure and content and wording)、文言(text)、メーカーの米国議会での証言などから、受諾書はカナダ政府の要請に応じて(in response to a request)、かつ、オートパクトの締結を見込んで(in connection with the anticipated conclusion of the Auto Pact)提出されたものである、と認定した。

 Aについては、受諾書の約束(undertaking)が非常に客観的・詳細に規定されていた(very specific, verifiable objectives)こと、受諾書中の「約束する(undertake)」と言う言葉が正式な義務(formal commitment)を引き受けるという意味で用いられていること、受諾書の不履行に対して制裁(sanction)が与えられるか否かは疑わしいものの、少なくとも約束を履行させるためカナダ政府が積極的に動いている(play an active role in ascertaining implementation of the commitments)ことが推察されること、カナダ政府は実際受諾書の約束の履行条項につき最近まで情報収集を行っていたこと、などから、約束は拘束力がある

ものと認定した。

 以上より、パネルは、受諾書に規定されたCVA要件は、GATT3.4条に違反する、と結論した。

 

比率要件(ratio requirement)は内国民待遇原則に違反するか

 MVTO1998及びSROsは、関税免除措置を得られる条件として、カナダ国内で生産した自動車の純売上高(the net sales value of vehicles produced in Canada)と、カナダで消費されるすべての自動車の純売上高との比率(the net sales value of all vehicles of that class sold for consumption in Canada)を、一定に保たなくてはならない、と規定していた(比率要件。下記参照)

 ECは、こうした比率要件は、輸入車(下記のB2)より国内で生産された自動車(下記のB1)を優遇するものであり、内国民待遇原則に違反する、と主張していた。しかし、パネルは、一定の比率要件を超えた場合でも、関税を支払う限り輸入車を販売することは妨げられず、比率要件はGATT3.4条に規定する「国内における販売」を制限するものではない、とした。

 

※比率要件:AとB(B1+B2)が、一定の比率になっていなくてはならない。

カナダでの生産額をそのままで、輸入車の販売(B2)を増やすと、比率が変わる

⇒A/(B1+B2+α)>A/(B1+B2) (左辺は輸入車販売増加後、右辺は増加前)

カナダでの生産()

カナダ以外での生産

カナダで消費(B1)

カナダ以外で消費

カナダで消費(B2)

カナダ以外で消費

 

 

 

※比率要件を超えた場合:Xについては、関税免除措置を与えられない

カナダでの生産()

カナダ以外での生産

カナダで消費(B1)

カナダ以外で消費

カナダで消費(B2)

カナダ以外で消費

比率要件内

比率要件を超えた分(X)

 

 

 

 

 

3.補助金協定(輸出補助金及び国産品優先使用補助金の禁止)

比率要件を満たせば与えられる関税免除措置は、禁止されている輸出補助金にあたるか

() 関税免除措置は、補助金協定1条に定義される補助金にあたるか

 パネルは、補助金協定1条に定義される補助金が存在するためには、(i) 「政府による資金提供(financial contribution by a government)」があり、かつ、(ii) (i)により「利益(benefit)」がもたらされていなくてはならない、として、(i)(ii)のそれぞれについて検討している。

 (i)について、パネルは、関税収入(customs duty)は政府収入(government revenue)で、かつ、本来支払われるべきであった(otherwise due)ものであり、関税免除措置措置はこの収入を放棄(forego)するものである、と認定した。(ii)については、「利益」とは「アドバンテージ(advantage)」のことであり、本来支払うべき関税を免除する、というのは「利益」にあたるとした。

 

※補助金協定1.1条該当部分の原文及び外務省訳

(a)(1) 加盟国の領域における政府又は公的機関(この協定において「政府」という。)が資金面で貢献していること。すなわち、(there is a financial contribution by a government or any public body within the territory of a Member(referred to in this Agreement as “government”), i.e. where:)

(i) 省略

(ii) 政府がその収入となるべきものを放棄し又は徴収しないこと。(government revenue that is otherwise due is forgone or not collected)()内は省略。

(iii)(iv) 省略

(b) (a)(1)又は(2)の措置によって利益がもたらされること。(a benefit is thereby conferred.)

 

() 関税免除措置は、輸出が行われることを条件としているか

 パネルは、輸出が行われることが関税免除措置を得る「法的な(in law)」条件とされているか否かを検討した。パネルは、法律の文言中に明示的に規定されているか否かではなく、法律の関連事項などを考慮することにより、「法的」か否かを判断すべき(can be demonstrated on basis of the law or other relevant legal instrument, without reference to external factual elements)とし、MVTO1998、SROsの規定に基づき、カナダ政府が数値を決定している比率要件は、「法的な」条件であると認定