WT/DS152/R
22 December 1999
United States – Section 301-310 of the
Trade Act of 1974
Complaint by European
Communities
Report of the panel
<目次>
1.背景
2.申立の対象措置
1.先決問題
4.通商法305条及び306条は、DSU23.2(c)条に違反しているか
1974年通商法301〜310条
申立国
EC
被申立国
米国
主たる関連協定
DSU(紛争解決に係る規則及び手続きに関する了解; Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of
Disputes)23条
ブラジル、カナダ、キューバ、ドミニカ、セントルシア、ドミニカ共和国、香港、インド、ジャマイカ、日本、韓国、タイ、コロンビア、コスタリカ、エクアドル、イスラエル
1998年11月25日 協議要請
1999年 1月26日 パネル設置要請
1999年 3月 2日 パネル設置
1999年12月22日 パネル報告
2000年 1月27日 パネル報告採択
ECは、ACP諸国(アフリカ、カリブ海、太平洋諸国)との間に、バナナの関税割当制度についてACP諸国産のバナナに対する特恵措置を設けたロメ協定を締結していたが、米国などの申立により設置されたパネル及び上級委員会により、この協定がWTO協定に違反すると決定され、是正措置の実施を勧告されていた(DS27)。ECは、1998年7月及び10月に、勧告の実施案を提示したが、申立国はこれを不満とし、実施案のWTO協定整合性をめぐってDSU21.5条に基づく元パネル(original panel)が設置された。同時に米国は、ECがバナナ輸入制度をWTO協定と整合的となるよう是正しない場合には、DSU22条に基づき通商法301条の制裁措置を発動すると決定した。ECは、米国通商法301条関連措置が、一方的制裁を禁止したDSU23条に違反するとして、本パネルの設置を要請した。
米国通商法301〜310条は、外国の措置が、通商協定に違反、通商協定上の利益の不当な侵害、不合理、差別的のいずれかに該当する場合、USTRに制裁措置を発動することを義務付け、もしくは制裁措置発動の裁量を認めている。ECが特に問題としたのは、304条、305条、306条である。これらの規定について、ECは次のような主張を行った。
通商法304(a)(2)(A)条は、WTOの紛争処理手続の進行にかかわらず、他の加盟国のWTO協定違反や利益侵害についての決定を行うことをUSTRに求めており、DSU23.2(a)条に違反している。
通商法306(b)条は、DSU21.5条に基づく手続にかかわらず、DSB(紛争解決機関)の勧告の実施についての決定を行うことをUSTRに求めており、DSU23.2(a)条に違反している。
DSU21.5条及び22条の手続にかかわらず、通商法306(b)条は、DSBの勧告が実施されていない場合、どのような措置を採るべきか決定することをUSTRに求め、かつ、通商法305条は決定された措置を実施することをUSTRに求めており、DSU23.2(c)条に違反している。
通商法306(b)条は、関税や課徴金、その他の貿易制限措置を採ることをUSTRに求めており、GATT1、2、3、8、11条に違反している。
※通商法301〜310条手続とWTO紛争処理手続との関連については、こちらのチャートをご参考ください。
パネルは、立証責任について、@まずは申立国であるECが主張及び証拠を提示し、申立事実に関する一応の推定を成立させなくてはならない(present arguments and evidence sufficient to establish a prima
facie case in respect of the various elements of its claims)、AECが一応の推定を成立させた後は、被申立国である米国が、その推定を反証する責任を負う(for the US to rebut that prima facie case)、B本件においては両当事国とも多数の事実関係や主張を提示しているが、パネルはこれらすべてを考慮し(balance all evidence on record)、ECがその立証責任を果たしているかを決定しなくてはならない、Cすべての証拠や主張をもってもいずれの当事国の主張が妥当か決しかねるときは、被申立国である米国に有利な結論を出さなくてはならない(in case all the evidence and arguments remain in equipoise, we
have to give the benefit of the doubt to the US as defending party)、とした。
さらにパネルは、国内法審査について、India – Patent(US)上級委決定を挙げつつ、@米国法「それ自体(as such)」を解釈するのではなく、WTO協定義務との整合性を審査するための事実要素として通商法301〜310条の意味を確定しなくてはならない(establish the meaning of Sections 301-310 as factual elements)(下線は分析者による)、A301〜310条の意味について、米国が主張する解釈をそのまま受け入れる必要はないが(not bound to accept the interpretation presented by the US)、加盟国が合理的に期待する程度の相当な配慮は払われなくてはならない(any Member can reasonably expect that considerable deference be given)、B通商法301〜310条とWTO協定とに同じ用語が使われているからといって、同じ意味で用いられているとは限られない、と述べた。
パネルは、通商法301〜310条の審査方法について、@国内法のWTO協定整合性審査は、その国の法制度の特徴を理解した上で行わなくてはならない、A通商法301〜310条は、法律そのものが規制を行っているというよりは、行政機関を創設し、その機関が法律を運用する、という構造になっており、通商法301〜310条を審査するためには、法律条上の文言と同時に制度的行政的要素(statutory language as well as other institutional and
administrative elements)も含めて考慮すべきであり、以下、パネルが通商法301〜310条という際は、これらの要素すべてを含めた措置を指すこととする、B以下では、まず法律上の文言そのもののについて審査し、その後、その他の関連要素について審査した上で、最終的な結論を導くこととする、とした。
ECは、通商法304条によると、USTRは、調査開始後18ヶ月以内に加盟国の措置がWTO協定に違反しているか否かを決定しなくてはならないが、WTOの紛争処理手続において報告が採択されるまでには19ヵ月半かかることも想定され、通商法304条は、DSU以外の手続でWTO協定違反等を決定することを禁止したWTO協定23.2(a)条に違反する、と主張した。
通商法304条の法律上の文言に関する仮決定(Preliminary Panel Findings)
パネルは、通商法304条の法律上の文言(statutory language)から、下記の事柄について確認した。
@USTRは、協議要請後18ヶ月以内に米国のWTO協定上の権利が侵害されているか否か(whether US rights are being denied)の決定をすることを、法的に義務付けられている(mandated,
i.e. obliged in law)。
ADSUは、紛争処理手続の最短期間(minimum time limits without ceilings)と、目安とすべき最長期間(maximum
time-limits that are, nonetheless, indicative only)とを定めているに過ぎず、協議要請から報告採択まで18ヶ月以上かかることは許容されているし、また実際そのように運用されている。その結果、USTRが通商法304条に基づき、WTOの報告採択前に、米国のWTO協定上の権利が侵害されているか否かを一方的に決定(unilateral determination)する場合もあり得る。
B通商法304条は、米国のWTO協定上の権利が侵害されているか否か(whether)を決定することを求めているのみで、米国のWTO協定上の権利が侵害されている(that US rights are being denied)と決定すること、すなわち「不整合性の決定(determination
of inconsistency)」は求めていない。USTRの行う決定の内容(the actual content of the determination)については、USTRに大幅な裁量が与えられている。
C通商法304条は、WTOの報告採択までに、米国のWTO協定上の権利が侵害されていると決定することを、妨げるものではない(not precluded)。
通商法304条の法律上の文言とDSU23条の義務
パネルによると、DSU23条は「多角的体制の強化(Strengthening of the Multilateral System)」に関する規定であり、この規定によると、@WTO協定との不整合性を決定するのは個々のWTO加盟国ではなくWTO、A勧告・裁定の実施のための妥当な期間を決定するのは個々のWTO加盟国ではなくWTOもしくは紛争当事両国、B譲許停止などの程度を決定するのは個々のWTO加盟国ではなくWTO、である。
また、パネルは、法律そのものがDSU23条に違反しうるかについて、@GATT先例(US – Superfund, US – Malt Beverages, EEC – Parts and Components,
Thai – Cigarettes, US - Tobacco)、WTO協定16.4条、WTOパネル報告(Argentina –
Textiles and Apparels(US), Canada – Aircraft, Turkey – Textiles and Clothing
Products)から明らかなように、法律そのものを協定違反とすることは可能である、A特にDSU23条について、この規定は、(i)DSUの手続をWTO協定に関する唯一の紛争処理手続(exclusive dispute resolution clause)としなくてはならない、かつ(ii)WTO協定に関する紛争処理にあたってはDSUの規則及び手続を遵守しなくてはならない(abide by)、という二重の性格を持つ一般的な義務(a general duty of a dual nature)を定めており、DSU23.2条に列挙された事例はその一例に過ぎず、DSU23条違反は、ある紛争における特定の行為によって(by an ad hoc, specific action)のみならず、法律や規則などの一般的に適用される措置によって(by measures of general applicability, e.g. legislation or
regulations)も生じ得る、と認めた。
次に、通商法304条そのものがDSU23条に違反しているか否かについて、米国は、通商法304条はWTOと整合的でない措置を義務付けるもしくはWTOと整合的な措置を排除する法律(legislation mandating a WTO inconsistency or precluding
WTO consistency)ではないので、通商法304条そのものをDSU23条違反とすることは出来ない、と主張し、ECは、WTOと整合的でない措置を義務付けなくとも許容している(not mandated but is allowed)通商法304条は、法律そのものがDSU23条違反となりうる、と主張していた。パネルは、@どのような法律がWTO協定違反となりうるかを抽象的に論じる(which type of legislation, in abstract, is capable of violating
WTO obligations)のではなく、争点となっているWTO義務の性質を慎重に審査し、そのような審査に基づいて、具体的な措置を評価しなくてはならない(to examine the nature of the WTO obligation at issue and to
evaluate the Measure in question in the light of such examination)、A仮に、米国の主張するように、WTOと整合的でない措置を義務付けるもしくはWTOと整合的な措置を排除する法律のみがWTO違反となりうるとしても、DSU23条が裁量を認める法律を禁止しているならば、そのような裁量を認める法律を定めていること自体がWTO整合的な措置を排除することになるため(Article 23 may prohibit legislation with certain discretionary
elements and therefore the very fact of having in the legislation such
discretion could, in effect, preclude WTO consistency)、通商法304条の法律上の文言に裁量的要素があるからといって、通商法304条そのものがWTO協定違反となりえないことはない(it simply does not follow from this test, as sometimes has been
argued, that legislation with discretion could never violate the WTO)、B通商法304条の法律上の文言はDSUに定められた手続が終了しない段階で不整合性の決定を行う裁量・権利をUSTRに与えており、DSU23条の通常の意味(ordinary meaning)から、通商法304条の法律上の文言はDSUに定められた規則・手続の一応の違反(a prima facie violation)を構成している、と認めた。
DSU23.2(a)条のウィーン条約法条約に基づく解釈
パネルは、DSU23.2(a)条の通常の意味から、DSU23.2(a)条により行わないと約束した行為を行う権利を与える(statutorily reserves the right for the Member concerned to do
something which it has promised not to do under Article 23.2(a))法律は、DSU23.2(a)条に違反している、と認めた。
パネルは、ウィーン条約法条約31条の「誠実に解釈(shall be interpreted in good faith)」すべきという要件を満たすのは困難であるが、DSU23条の「より誠実な(better
faith)」解釈によれば、この規定は禁止されている行為を行うおそれのある国内法を制定しないことも約束したもの(the undertaking to refrain from adopting national laws which
threaten prohibited conduct)と考えるべきである、とした。
次にパネルは、DS23.2(a)条の趣旨及び目的に照らした解釈を行った。パネルは、@DSU23条に関連するDSUもしくはWTO全体の趣旨及び目的とは、国内及びグローバル市場における個々の経済活動に資する市場条件を創り、かつ、多角的貿易体制の安定性及び予見可能性を与えることにある(to the creation of market conditions conducive to individual
economic activity in national and global markets and to the provision of a
secure and predictable multilateral trading system)、A安定性及び予見可能性の欠如は個々の経済活動に影響を与えると考えられ、実際通商法301〜310条はこのような連結(nexus)を認識している、BGATT/WTOは、法律の存在自体が個々の経済活動に与える「萎縮効果」の深刻さに鑑み、法律そのものをもGATT/WTO違反となりうると認めてきた(パネルは、間接的効果の原則(the principle of indirect effect)と呼んでいる)(パネルは、GATT3条などに関する事例として、US
– Superfund, US – Malt Beverages, US – Tobacco, EEC – Oilseeds, Japan –
Leather, Argentina – Textiles and Apparel(US)を挙げている)、C一方的なWTO協定違反の決定を義務付けないまでも、こうした決定をするおそれのある法律は、個人や市場(individuals and the market place)に間接的な影響を及ぼすと考えられることから、WTOの趣旨及び目的により、DSU23.2(a)条はこうした法律そのものをも対象としていると解すべきである、DDSUに反する一方的な措置を採る権利を認める法律の「萎縮効果」として、(i)他の加盟国に与える損害(the damage caused directly to another Member):DSU手続完了前に、措置の対象となりうる加盟国は、政策の変更を迫られ、従って、多角的紛争処理制度が促進・確立しようとしている安定性かつ均衡性がくずれてしまう(would disrupt the very stability and equilibrium which
multilateral dispute resolution was meant to foster and consequently establish)、(ii)市場に与える損害(damage
caused to the market-place itself):WTO協定に違反する一方的措置を採ることを許容する法律が存在しているという事実によって、経済主体は現在及び将来の商業的活動を変更し、よって貿易が撹乱される、という二つの損害が考えられる、と認めた。
最後にパネルは、@WTO紛争処理システムは、ウルグアイラウンドがもたらした根本的変化かつ主要な成果のひとつである、A紛争処理システムはWTOのすべての実体的義務にかかわるもので、個人や市場が紛争処理システムへの信頼を失えば、同時にWTOの実体的義務への信頼も失う、という、DSU23条の文脈、WTO全体の中でのDSUの位置付け(the context of Article 23 and the DSU in the overall WTO system)に鑑み、以上のパネル解釈は支持される、とした。
以上より、パネルは、通商法304条は、USTRに不整合性の認定を行う裁量を認めることにより、加盟国や経済主体にDSU23.2(a)条で禁止されている措置が採られるかもしれないというリスク、おそれを与えており、通商法304条の法律上の文言は、DSU23.2(a)条の一応の違反(prima facie violation)を構成している。
通商法304条の非法律的要素(non-statutory elements)
パネルは、まず、@通商法304条には、法律上の文言のみならず、制度的行政的要素も含まれており、これらを検証せずに通商法304条のWTO協定整合性についての結論を出すことはできない、A先にパネルは、通商法304条の法律上の文言によれば、USTRに不整合性の決定を行う裁量を認められているため、通商法304条は一応のWTO協定違反を構成している、と認定したが、このような裁量が何らかの方法により法的に制限(lawfully curtailed)されていれば、上述したような通商法304条がWTO加盟国や市場における個人に与える悪影響は取り除かれ、従って通商法304条はWTO協定整合的となりうる、と述べ、USTRの裁量が法的に制限されているか否かについて、次のような検討を行った。
パネルは、@米国は、SAA(Statement of Administrative Action)の中で、「WTO協定の違反もしくは米国の協定上の権利侵害に関する通商法301条決定は、いかなる場合もDSBによって採択されたパネルもしくは上級委員会の決定に基づくものとする(base any section 301 determination that there has been a violation
or denial of U.S. rights under the relevant agreement on the panel or Appellate
Body findings adopted by the DSB)」、としている、ASAAは、解釈適用に関する行政府の見解を示すもので、議会の承認もあり、将来の行政府によっても踏襲される指針である、BECは、SAAの中に、@で示した文言と矛盾する表現がある、と主張しているが、法令中にあいまいな箇所がある場合には、米国の憲法上の原則に従い(Charming Betsy Doctrine)、可能な限り米国の国際法上の義務に沿うような方法で解釈されると期待される(We
note however, that, following US constitutional law, cases of ambiguity in the
construction of legal instruments, should, where possible, always be resolved
in a manner consistent with US international obligations)、C米国は、パネル手続の中で、SAAに示された約束を明確に、公的に、繰り返し、無条件に、確認しており(explicitly, officially, repeatedly and unconditionally confirmed
the commitment expressed in the SAA)、このような発言は、通商法304条及びDSU23.2(a)条の義務についての、米国の明確な公的立場(the unambiguous and official position of the US representing,….,
an undertaking that the discretion of the USTR has been limited so as to prevent
a determination of inconsistency before exhaustion of DSU proceedings)を示したものとみなしうる、D通商法304条の性格から、米国行政府は通商法304条の運用のあり方を決定する権限を有している(we fully accept the power of the US Administration to….)、E米国は、GATT/WTO紛争処理手続の結果に基づかないで、これらの協定に関する通商法304条の決定が行なわれたことは一度もない、と主張しており、この主張を覆す十分な証拠が挙げられていない、として、USTRの不整合性の決定を行なう裁量は法的に制限されている、と認めた。
以上のように、パネルは、通商法304条の法律上の文言及び非法律的要素を総合的に検討した結果、通商法304条はDSU23.2(a)条に違反していない、と結論した。
ただし、パネルは、以上の結論は、SAA及びパネル手続における米国行政府の約束(undertakings)に依拠するものであり、従って、仮にこの約束が撤回されることがあれば、以上の結論もその根拠を失うこととなる、と付け加えた。
ECは、@通商法306条によると、USTRは、DSBの勧告実施のための妥当な期間満了後30日以内に、加盟国がDSBの勧告を実施しているか否かを考慮し(“consider”)、又、勧告を実施していないと認めたときは、今後いかなる措置を採るべきか決定しなくてはならない、ADSU21.5条は、勧告の実施に関する問題は元パネル(original panel)によって90日以内に決定されなくてはならないと定めており、このような手続に従わない通商法306条はDSU23.2(a)条に違反している、と主張した。
通商法306条の法律上の文言に関する仮決定
パネルは、通商法306条の法律上の文言について、以下のような仮の決定を行った。
@通商法306条は、(i)勧告が実施されているかについての考慮(consideration)、(ii)勧告が実施されていない場合には、いかなる措置が採られなくてはならないかについての決定(determination)、の、2つの局面から構成され、またこれらの考慮・決定は、勧告実施のための妥当な期間満了後30日以内におこなわれなくてはならない。
ADSU21.5条の手続が完了する前に、通商法306条に基づく勧告不実施についての考慮(consideration)がなされる可能性がある。
B通商法306条の「考慮(consideration)」とは、その堅固性・不変性(firmness and immutability)において、DSU23.2(a)条の「決定(determination)」と同等とみなされる。
C通商法306条の下、USTRは一定の期間内に何らかの決定を行なうことを義務付けられているものの、通商法304条と同じく、決定の内容については幅広い裁量を有している。
Dここで問題としている決定は、それ自体譲許停止の決定ではなく、譲許停止を要請する決定に過ぎない。
通商法306条とDSU23.2(a)条の義務
パネルはまず、USTRが、通商法306条に基づいて、DSU21.5条手続終了前に勧告不実施の決定をした場合、DSU23.2(a)条違反となるか否かを検討した。
これに関して米国は、DSU22条によると、妥当な期間満了後30日以内に譲許の停止に関するDSBのネガティブ・コンセンサスによる承認を得なくてはならず、従って、譲許停止を求めようとすれば、USTRは30日以内に勧告不実施の決定を行う必要がある、と主張した。他方、ECは、DSU22条に基づく譲許停止のための手続は、DSU21.5条手続が完了した後にのみ進めることができる、と主張していた。
パネルは、仮に米国の主張が正しいとすれば、@通商法306条に基づく決定は、DSUに規定される譲許の停止を求めるために必要な措置(an act required when seeking multilateral authorization for the
suspension of concessions as provided for in the DSU itself)とみなされる、ADSU23.2(a)条は、DSU21.5条パネル決定に適合する「決定」ではなく、元々の紛争におけるパネル/上級委員会決定に適合する「決定」を行うよう求めていると解すべきである(そうでなければ、DSU22条及び23.2(c)条と、DSU23.2(a)条との間に齟齬が生じてしまう)、として、元々の紛争におけるパネル/上級委員会決定に基づいて行われるUSTRの通商法306条決定は、DSUに違反していない、と認めた。
次にパネルは、仮にECの主張が正しかった場合には、@通商法306条は、(ECが主張するところの)DSU違反となる決定を行う裁量をUSTRに与えており、その法律上の文言はDSU23.2(a)条の一応の違反を構成している、Aしかしながら、通商法304条に関する審査において述べたように、SAA及びパネル手続における米国の発言により、@で述べたUSTRの裁量は法的に制限されている、として、通商法306条そのものをDSU23.2(a)条違反とすることは出来ない、と結論した。
以上から、パネルは、通商法306条は、DSU22条とDSU21.5条に関する米国の主張が正しいと仮定しても、ECの主張が正しいとしても、DSU23.2(a)条に違反していない、と結論した。
ただし、パネルは、以上の結論は、SAA及びパネル手続における米国行政府の約束(undertakings)に依拠するものであり、従って、仮にこの約束が撤回されることがあれば、以上の結論もその根拠を失うこととなる、と付け加えた。
4.通商法305条及び306条はDSU23.2(c)条に違反しているか
ECは、通商法306条によると、USTRは、勧告不実施の決定を行った場合、DSU手続の進行にかかわらず、妥当な期間満了後30日以内に、通商法301条に基づきいかなる措置が採られるべきか(what further action to take under Section 301)を決定しなくてはならず、通商法306条はDSU23.2(c)条に違反している、と主張した。
パネルは、通商法306条の下での採るべき措置についての決定は、勧告不実施の決定がDSU.2(a)条に違反しないのと同様の理由で、DSU23.2(c)条違反とはならない、と述べた。
また、ECは、@通商法305条によると、USTRは、妥当な期間満了後60日以内に、通商法306条により決定した措置を実施しなくてはならない、Aこのような措置が、DSU21.5条手続や、DSU22条に基づく仲裁手続が完了しないうちに実施される可能性がある、として、通商法305条は、DSU23.2(c)条に違反している、と主張していた。
パネルは、@通商法305条によると、USTRは、措置の実施を妥当な期間満了後180日まで延長する権限を有しているものの、DSU手続が完了しないうちに当該措置を実施する裁量をも有しており、このような裁量を認める通商法305条はDSU23.2(c)条の一応の違反を構成している、Aしかし、SAA及びパネル手続における米国の発言により、このようなUSTRの裁量は法的に制限されている、として、通商法305条はDSU23.2(c)条に違反していない、と結論した。