WT/DS336/R
13 July 2007
Japan – Countervailing Duties on
Dynamic Random Access Memories from Korea
Complaint by
Report of the Panel
<目次>
1.日本の相殺関税
1.先決的決定の要請
2.一般的争点
7.利益の配分と継続
8.特定性
10. 損害の因果関係
11. 資金の直接的な移転
12. 所有者の変更
13. 32.1条
韓国DRAMに対する相殺関税
韓国
被申立国
日本
中国、EC、米国
Mr. Daniel Moulis (Chairperson)
Dr. Faizullah Khilji
Mr. José Luis Santiago Pérez Gabilondo
SCM協定(補助金及び相殺措置に関する協定;Agreement on Subsidies and Countervailing Measures)、DSU(紛争解決に係る規則及び手続に関する了解; Understanding on Rules and Procedures Governing the Settlement of
Disputes)
2006年 3月14日 協議要請
2006年 5月18日 パネル設置要請
2006年 6月19日 パネル設置
2007年 7月13日 パネル報告
2007年11月28日 上級委員会報告
2007年12月17日 パネル・上級委員会報告採択
※上級委員会報告については、上級委員会報告分析を参考にしてください。
2004年8月4日、日本は、韓国ハイニックス社製のDRAMに対する相殺関税調査を開始した。日本は、2006年1月に最終クロ決定を行い、27.2%の相殺関税賦課を決定した。
なお、本件は、日本が相殺関税措置を発動した初めての案件である。
※本件相殺関税調査の詳細については、下記を参照。
○関税・外国為替等審議会関税分科会特殊関税部会平成18年1月20日配布資料
1.先決的決定の要請(Requests
for Preliminary Rulings)
日本は、韓国のパネル設置要請がDSU6.2条の要件を満たしておらず、したがって棄却されなければならないと主張していた。他方で韓国は、DSU6.2条の要件が満たされているか否かは、パネル手続において被申立国が不利益を被ったか否かを基に判断しなければならず、この点日本は不利益を被っていないのでDSU6.2条の要件は満たされていると主張していた。
パネルは、次のように述べた。@DSU6.2条の要件が満たされているか否かは、不利益が生じているか否かではなく、パネル設置要請の文言を基に判断しなければならない(7.5-10)、A日本が問題としている韓国パネル設置要請の一部(アイテム15)は、複数の多様な義務に言及しており、問題を明確に提示しているとは言えず、DSU6.2条の要件は満たされていない。しかし、それ以外のパネル設置要請はDSU6.2条の要件を満たしている(7.11-40)。
2.一般的争点(General
Issues)
パネルは、審査基準、立証責任、条約解釈に関するこれまでの慣行を確認した(7.41-46)。
3.立証責任の転換についての主張(Alleged Reversal of the Burden of Proof)
韓国は、日本が相殺関税調査において補助金の存在に関する立証責任を転換したことは補助金協定1条及び2条に違反すると主張していた。
パネルは、立証責任の転換については実体問題と併せて判断すると述べた。
4.民間団体に対する委託若しくは指示に関する日本の調査当局の決定(The JIA’s Determination of Entrustment or Direction of Certain
Private Bodies)
法律、解釈、証拠に関する争点(Legal, Interpretational, and Evidentiary Issues)
パネルは、「委託若しくは指示」の認定のために必要な証拠について、次のように述べた。@「委託若しくは指示(entrustment or direction)」という用語はSCM協定で定義されていないが、その意味は過去の事案において明らかにされつつあり、本パネルは特にUS – CVD
Investigation on DRAMS上級委報告における認定に依拠する(7.62-63)、A本件で韓国は、ハイニックスの債権者が自らの利益にならない取引を行うことを強制されたか否かを日本が考慮しなかったことに何度か言及しているが、利益に反する取引であったか否かは、政府の委託若しくは指示があったことの証拠の一つに過ぎず、それのみで委託若しくは指示の有無を判断することはできない(7.64-70)、B「委託若しくは指示」があったことを認定するためには、民間団体に明示的に「伝えた(told)」ことを証明する必要はなく、状況証拠を総合的に判断して「委託若しくは指示」を認定しうることを確認する(7.71-74)、C韓国は、調査当局は「説得力をもって証明しうる(probative and compelling)」証拠に依拠しなければならないと主張しているが、US – CVD Investigation on DRAMS上級委報告に基づき、本パネルは証拠が「説得力を持って証明しうる」か否かではなく、日本の調査当局が用いた証拠が結論を支持しているか否かを検討する(7.75-78)、DCと同様に、「実証的な証拠(positive evidence)」義務についても、日本の調査当局が用いた証拠が結論を支持しているか否かという観点から審査する(7.79-82)。
合理的な債権者であれば危機的な財政状況にあったハイニックスの支援のための措置に参加しなかったはずであるという推定(The Alleged
Presumption That No Rational Creditor Would Have Entered Into the Restructuring
Transactions, in View of Hynix’s Poor and Deteriorating Financial Condition)
韓国は、日本の推定(合理的な債権者はハイニックス支援のための措置に参加しなかったはず)は「外部の」債権者(潜在的に新規の債権者になりうる者)の視点に立ったものであり、「内部の」債権者(すでに債権者になっている者)の視点を見落としていると主張していた(7.83-86)。
パネルは、外部の債権者が支援のための措置に参加しなかったというのは日本の推定ではなく事実に基づいた認定であるし、また日本は内部の債権者にとっては商業的な考慮に基づく行為になりえたという点も踏まえて認定を行っているとして、韓国の主張を退けた(7.88-94)。
「ハイニックスを存続させる」という韓国政府の意図(The Government of
Korea’s Alleged Intent to “Keep Hynix Alive”)
韓国は、韓国政府の意図(ハイニックスを存続させる)に関する日本の分析は公平性や一貫性を欠く(biased and inconsistent with evidence)と主張していた(7.98-101)。
パネルは、次のように述べて、韓国の主張を退けた。@政府の措置や発言の背景にある動機は、委託若しくは指示があったか否かを判断するために参考となりうる証拠である(7.104)、A日本の調査当局の用いた証拠は、すべてが一貫して日本の結論を支持しているわけではないものの、ハイニックスを存続させるという韓国政府の意図を認定するには十分なものであったといえるし、韓国は日本の調査当局の認定が不十分であったことの一応の証明(prima facie case)を行っていない(7.105-114)、B韓国は、日本の調査当局が合理的な債権者であれば支援措置に参加しなかったはずとの推定のみに基づいて韓国政府の意図を認定したと主張しているが、すでに述べたように債権者の行動について日本は適切な認定をおこなっていることから、この点についての韓国の主張も認められない(7.115-116)。
商業的な合理性:金融支援措置に関する4債権者(韓国外換銀行(KEB)、ウリィ銀行、朝興銀行、韓国農業協同組合中央会(NACF))の内部審査についての日本の調査当局の分析(Commercial
Reasonableness: the JIA’s Analysis of the Internal Examinations of the
Restructurings by the Four Creditors)
韓国は、4債権者が金融支援措置に参加したのは非商業的理由からであり商業的には合理的ではない取引であったとの日本の分析は、外部の債権者の視点に偏ったものであるし、証拠を適切に評価したものではないと主張していた。
パネルは、次のように述べて、韓国の主張を一部認めた。@日本は、ハイニックスの財政状況についての客観的な分析に基づき外部の債権者にとって商業的に合理的な取引ではなかったと認定を行ったのち、内部の債権者(とくにウリィ銀行)の措置参加についての事実関係に基づき内部の債権者にとっても商業的に合理的な取引ではなかったとの認定を行っている(7.127-132)、A4債権者の2001年10月の金融支援措置への参加について、日本は、債権者による金融支援措置についての内部審査や外部の専門家の報告書を適切に分析しており、商業的に合理的な参加ではなかったとの結論に誤りはない(7.133-154)、B4債権者の2002年12月の金融支援措置への参加について、日本は、ドイツ銀行の報告(韓国の主張によれば、4債権者はこの報告に基づき取引の商業的合理性を判断した)は第三者性の欠如や分析の不自然さといった問題があり商業的合理性を判断する証拠として認められないと判断しているが、日本が指摘しているような問題があったことを示す十分な証拠は認められず、したがってドイツ銀行の報告を商業的合理性の判断材料として十分に考慮しなかったことは誤りであった(7.158-245)、C日本は、2002年12月金融支援措置への参加の商業的合理性を否定する際、ドイツ銀行の報告の上述の問題を主たる根拠としている。しかし、Bで述べたように、ドイツ銀行の報告には日本が指摘したような問題は認められないことから、2002年12月金融支援措置への参加が商業的に合理性なものではなかったとの日本の判断は誤りであった(7.247)。
同条件の同取引へのその他の債権者の参加(The Participation
of Other Creditors in the Same Transactions and on the Same Terms)
韓国は、同じような条件の同じような取引へ参加している4債権者以外の債権者が多数存在していたことからも、委託若しくは指示があったとの日本の認定は妥当でなかったと主張していた。
パネルは、2001年10月の金融支援措置について(2002年12月の金融支援措置についてはすでに日本の誤りを認定していることからここで検討する必要はない)、4債権者以外の債権者が参加していたからと言って、4債権者に対する委託若しくは指示がなかったと判断しなければならないわけではないとして、韓国の主張を退けた(7.250-251)。
結論(Conclusion)
以上より、パネルは次のように結論した。@4債権者の2001年10月の金融支援措置への参加について、日本がSCM協定1.1条(a)(1)(iv)に違反したとの韓国の主張を退ける(7.252)、A4債権者の2002年12月の金融支援措置への参加について、日本は商業的な合理性がないことを理由に委託若しくは指示を認定しており、それ以外の根拠については認定を行っていない。上述したように、商業的非合理性に関する日本の判断は誤りであったことから、日本はSCM協定1.1条(a)(1)(iv)に違反した(7.253-254)。
5.日本の調査当局の利益の認定(The JIA’s Determination of Benefit)
韓国は、日本の調査当局の2001年10月金融支援措置及び2002年12月金融支援措置に関する利益の存在及び額に関する認定が、SCM協定1.1条(b)及び14条に違反していると主張していた。
パネルは、次のように述べて、一部を除き韓国の主張を認めた。@SCM協定は「利益」を定義していないが、これまでの先例によれば、市場で利用可能な条件よりも有利な条件で資金面での貢献が与えられる時、利益の存在が認められる(7.257)、Aまず日本の調査当局の用いた証拠について、すでに述べたように、日本が外部の債権者の視点のみに依拠しているとの韓国の主張は認められない。また、韓国は日本が市場ベンチマーク(市場原理に基づけばどのような行動がとられたか)との比較を行っていないことを問題としているが、日本がそうしたように、資金面での貢献が商業的考慮に基づくものであったか否かを検討することで利益の存在を認定することもでき、したがって日本の用いた証拠には問題がない(7.271-277)、B韓国は、ハイニックスの状況が改善(better off)した場合にのみ利益の存在を認定できると主張しているが、すでに述べたように利益の存否は資金面での貢献が商業的考慮に基づくものであったか否かによっても判断しうる。この点、日本の商業的合理性認定に関する上記パネル認定を踏まえ、2001年10月金融支援措置による利益の存在認定は妥当であったが、2002年12月金融支援措置による利益の存在認定は誤りであったと認める(7.280-282)、C委託若しくは指示があったと認定されなかったその他の債権者も同様の条件で2001年10月の金融支援措置(2002年12月の金融支援措置についてはすでに日本の誤りを認定していることからここでは検討しない)に参加していた点について、日本は、2001年10月以前にハイニックスに補助金が与えられて市場条件が歪められていたことから、2001年10月にその他の債権者が参加していることを商業的考慮の有無の判断の材料にできないと主張しているが(つまり適切なベンチマークがない)、過去に補助金が与えられていたという事実のみで市場価格が歪められていたと認定することはできず、この点日本の認定は誤りであった。ただ、日本の用いたファクツアベイラブルによればその他の債権者の支援措置参加も商業的考慮に基づくものでなかったことが間接的に証明されており、結論としては、その他の債権者の支援措置参加に関する日本の評価に誤りはない
(7.283-298)、D日本の利益額の計算について、まず、相殺関税調査において行わなかった論拠(arguments)をWTO紛争処理手続の場で行うことは認められることを確認する。日本は、外部の債権者にとっての市場ベンチマークに基づき、2001年10月及び2002年12月の金融支援措置の利益額を計算しているが、外部の債権者と内部の債権者とでは視点が異なるのであり、外部の債権者の視点のみを調査することで内部の債権者に与えられた利益の額を適切に計算できるとは言えない。また、債権から株式への転換について、日本は転換された株式の価値をゼロとみなすことにより利益の額を多く見積もっている。したがって、2001年10月及び2002年12月の金融支援措置についての日本の利益額の計算は誤りであったと認める(7.304-315)、E以上より、2002年12月金融支援措置における日本の利益の存在認定がSCM協定1.1条(b)及び14条に違反していること、2001年10月及び2002年12月金融支援措置における日本の利益額の計算がSCM協定1.1条(b)及び14条に違反していることについて、本パネルは韓国の主張を認める(7.316)、F日本のSCM協定19.4条及び1994年のGATT6.3条違反に関する韓国の主張は審査する必要がない(7.317)。
6.協定14条柱書/利益の計算方法(Article 14 Chapeau / Benefit Calculation Method)
パネルは、次のように述べて、日本のSCM協定14条柱書違反を認めた。@まず、日本は韓国の申立が「相殺関税及び不当廉売関税に関する手続等についてのガイドライン」そのものに対して向けられていると認識しているが、韓国の申立は上記ガイドラインに適切に規定されていない方法の利用に対するもので、ガイドラインそのものに対するものではないことを確認する(7.323-325)、Aガイドラインは利益計算に関する簡単な指針を定めているのみであり、日本は、利益の計算をする際、ガイドラインに規定されていない方法(methods)を用いている(7.326-334)。
7.利益の配分と継続(Allocation/Continued Existence of Benefit)
韓国は、日本は2001年10月の金融支援措置による利益を2001年から2005年に配分していたことから、相殺関税を賦課した2006年の時点ではすでに利益は存在していなかったとして、日本のSCM協定19.4条及び21.1条違反を主張していた。
パネルは、次のように述べて、韓国の主張を一部認め、日本のSCM協定19.4条違反を認めた。@SCM協定21.1条は、いったん相殺関税が賦課されたのちに適用される規定であり、相殺関税の賦課そのものには適用されないので、韓国の同条に基づく主張は認められない(7.350)、ASCM協定19.4条に関する争点は、補助金が調査対象期間中に存在していたことが認定されれば十分なのか相殺関税賦課の時点においても存在していなければならないのかであるが、SCM協定19.4条の「その存在が認定された(found to exist)」という用語の通常の意味からは、どちらが適切な解釈か判断できない(7.351)、BSCM協定19.4条の文脈(SCM協定19.1条や過去の事例)や補助金相殺関税の目的(補助金輸入による影響の相殺)からは、補助金の影響が相殺関税賦課時点で存在していなければならないと解される(7.352-355)、CBは、調査当局が過去のデータに基づいて相殺関税の賦課を決定することを否定するものではない。しかし、繰り返されることのない(non-recurring)補助金の場合は、補助金によって得られた利益が相殺関税賦課時点まで継続して存在していることを明らかにしなければならないが、日本の調査当局の認定によれば2001年金融支援措置による利益は2005年までしか存在していない(7.356-360)。
8.特定性(Specificity)
韓国は、2001年10月及び2002年12月の金融支援措置によって提示された条件は企業再編促進法(Corporate Restructuring Promotion Act)を通じて一般にも利用可能なものであることから、日本の調査当局は特定性を適切に認定しておらずしたがってSCM協定2条に違反したと主張していた。
パネルは、EC – Countervailing Measures
on DRAM Chipsパネル報告に依拠しつつ、企業再編促進法は金融支援の手続的枠組みを定めたに過ぎないことから2001年10月及び2002年12月の措置が企業再編促進法の通常の運用の結果とは言えないし、また日本の調査当局が認定しているように今回の金融支援措置は韓国が特定の企業を救済するという政治的意図を以て実施したものであり特定性があるといえると述べ、韓国の主張を退けた(7.370-375)。